『 ひみつの相関図ノート』感想

2024年6月27日木曜日

感想

ひみつの相関図ノート』(ポプラ社)

 編/日本児童文芸家協会 絵/hagi


 物語の初めに描かれている相関図の関係が、最後にはがらりと姿を変えるというコンセプトのこの短編集。
 どんでん返しがあるとわかっているうえで読ませるものだから、すごく難しいと思うのですが……さすがの先生方です。どのお話も個性が出ていて、とても楽しく読ませていただきました。
 以下、一編ずつの感想です。
(※ネタバレは避けたつもりですが、まだ読んでいない方はぜひ先に本編を読んでからご覧ください……!)

初恋は前途多難!?/望月麻衣さん

 相沢君がかわいすぎて……!国語辞典を何冊も並べて比較したり、分数のわり算のはしょられている部分を知っていたり。気になったことをそのままにしない性格が、彼の世界の解像度を高くしているんだろうなあ。ありのままの彼をすごいと思ったり心から感謝したりできる菜々美もすてき。
 自分の気持ちを大事にした二人だからこその結末だと思いました。

夢追うふたり/如月かずささん

 本村さんによって朔の運命が動き出す瞬間がとても好き。そして同じく小説を書いている身として、朔の気持ちにとても共感しました。夢を追う道のりは決して楽しいことばかりではないけれど、追わなければ見えてこない景色もある。すべての夢を追う人を応援したくなるお話でした。

放課後のメッセージ/神戸遥真さん

 黒板に書かれるメッセージを通した、放課後の秘密のやりとり。
 エモい……! どこかの学校で今まさに起こっていることなんじゃないか?と思ってしまうようなリアルさがありました。高校時代に似たようなことをしていた私には、こんなすてきなことは起こりませんでしたが……(笑)
 ライバルだった二人がこれからどんな時間を共有していくのか、楽しみです。

わたしのママは/もえぎ桃さん

 途中で「ん……?」と思いつつも、いやいやでもな、と読み進めた結果、とある一行で「えええ!?」とめちゃくちゃ驚きました。日本語ってすげえ……!痛みがひしひしと伝わってくるような文章で世界にのめりこんでいたところに、突然横から頬を張られたような衝撃。読後感も良く、もえぎさんの腕の良さを味わえるとても巧みな一編だと感じました。

きみは友だち/宮下恵茉さん

 仲良くなった子が他の子と仲良くしてるところを見たときの面白くない気持ち、めちゃめちゃわかる……! 大事に思っているからこそ、相手の存在が大きいからこそ出てきてしまう嫉妬という感情。自分がいやになってしまうけれど、抑えようがないんですよね。
 変化後の相関図もちょっと予想外な部分があり、「そうだったのか!」となりました。この先もまだまだ変化していきそうな二人の関係が尊いです。

壁の向こうのソラ/地図十行路さん

 これは、とっても続きが気になる一編でした。二人を隔てているものは距離や五年間という時間だけではなかったなんて……!封筒に入っていたあれは、本当は彼が入れたものなのかも……と思ったり。
 閉じられた物語の後で茜がどんな選択をするのか、読者にゆだねられているラストのもたらす余韻が随一だと感じました。

いとしのナナ/松素めぐりさん

 こちらも「ん?」と思いつつも、最後までまったくわかりませんでした。見事にだまされた!そして「ナナ」にそんな意味があるとは……!
 ナナの言動がとってもかわいくて、楽しそうに恋している姿に読んでいるこちらもついにやけそうになります。ナナを見守るカナとママのあたたかさもすてきでした。

それでも地獄で息をする/にかいどう青さん

 文章のセンスが良すぎるのはもちろん、ナツ、リンゴ、ワタルと出てくるキャラがみんな魅力的。描かれている出来事に対して語り手のナツがまったく動じていないように見えるので読み進めるうちに逆に不安になってくるのですが、やがて明かされる秘密に思わずもんどりうちそうになりました。
 終わり方も含めて、この短編集のラストを飾るにふさわしい一編だなあ、と……! 今後の彼らがどうなっていくのか、知りたくなりました。

  *****


 描かれている変化の形は、行き違いだったりSFだったり叙述トリックだったりとさまざま。変化のきっかけとなるスイッチの入れ方も段階的だったり瞬間的だったり、短編を書くのが苦手な私には勉強になる点が多すぎました。
 自分だったらどういう変化を書くかな?と読んだ後でいろいろと想像する時間も楽しかったです。
 これだけの豪華な作家先生方の作品を一冊で読めるなんて、本当にお得!
 ぜひたくさんの方に読んでいただきたいと思いました!

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