※最初に謝っておきます。この記事、すごく長いです……!
ふたつめのコツは「変化」を意識することでしたね。
どんな「変化」を書きたいか考えることで、ストーリーの「最初」と「最後」ができたのではないでしょうか。
さあ、これでスタート地点とゴール地点が定まりました。
次は、その「あいだ」をどうするか、ということについて考えてみたいと思います。
①「障害」について考えてみる
たとえば、「片思いだったが両思いになる」というストーリーで「あいだ」を考えてみましょう。
主人公は最初、相手に片思いをしています。
それが最後には、両思いになる。
その間には、何が必要でしょうか。
片思い
↓
告白して成功する
↓
両思い
普通に考えるとこうなるでしょうか?
でもこれだと、「!」や「?」が少なく、あまりおもしろくないストーリーになってしまいそうです。簡単に成功してしまうところも、ちょっとご都合主義に感じますね。
ここで、三つ目のコツです。
「障害」を入れてみましょう!
「障害」とは、「壁」のことです。「両思い」というゴールの前に立ちはだかる壁です。
「障害」は、たくさんの「!」や「?」を生み出すことができます。
・障害の登場
「!」…大変!
「?」…どうするの?
・乗り越えるための努力や作戦
「!」…すごい!
「?」…大丈夫? うまくいくの?
・乗り越える瞬間
「!」…やったー!
「?」…これでもう大丈夫だよね?
・乗り越えた後に得たもの
「!」…よかったね! 感動した!
こんな感じです。
では、障害はどういうふうに作ればよいのでしょうか。
障害には、二種類あります。
「外の障害」と「中の障害」です。
「外の障害」は、文字通り外からやってくる障害です。
告白を妨害しようとする人、主人公にほえてくる犬、用事を押しつけてくる先生、大嵐、事件や事故、などなど。
「中の障害」は、主人公の心が原因の障害です。
勇気がない、どんな言葉をつかえばいいのかわからない、ふられたらかっこ悪い、などなど。
この「外」と「中」は、どちらかだけでもいいですし、両方使ってもおもしろいと思います。
コツは、主人公にできるだけ大変な思いをさせるよう、簡単には乗り越えられない障害にすることです。
とにかく主人公に「大変!どうにかしなきゃ!」と思わせてください。
たとえば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年)という映画では、主人公がタイムマシンで過去の時代にタイムスリップしてしまいます。
この映画には障害がいくつも描かれていますが、中でも最大の障害は「タイムマシンの燃料がなく、元の時代に戻れない」というものです。
これだけでも大変ですが、他にも大きな障害が描かれています。こちらもかなり大変な障害です。
いったいどんな障害でしょうか。見たことがない方はぜひ見てみてください。四十年ほど前の映画ですが、名作です。
気に入ったら、続編の2と3も見てみてくださいね。
みっつめのコツ:主人公をこまらせる「障害」を作ろう!
②「起承転結」で考えてみる
ここからは、もう少しつっこんだ話をしていきたいと思います。
みなさんには「書きたいシーン」はありますか?
小説を書こうとするとき、私はいつも真っ先に「書きたいシーン」が頭に浮かんでいました。
そうしたシーンはだいたいにおいて、ドラマチックだったりハデだったり、映画でいえば一番盛り上がる「見せ場」的なものであることがほとんどでした。
「書きたいシーン」がある方は、「変化」を意識して考えた「最初」と「最後」の間にそれをならべてみてください。
それを順番に読んで、「おもしろい!」「今すぐ書きたい!」と思った方は、すぐに書き始めてください。きっとすてきな小説ができあがることと思います。
ですが、「わからない」「おもしろくない」と感じた方もいるのではないでしょうか。
私はいつもそうでした。書きたいシーンをならべても、都合がよすぎると感じたり、盛り上がらないと感じたり。
「!」も「?」もほとんどない、とても平坦なストーリーになってしまうことがほとんどでした。
では、起伏にとんだジェットコースターのようなおもしろい話を書くには、いったいどうすればいいのでしょうか?
ここでは、「構成」という観点から「あいだ」の部分にどんなことを書いていけばいいのか考えていきたいとおもいます。
ストーリーの作り方の基本として、よく「起承転結」や「序破急」といった言葉をつかうことがあります。みなさんも聞いたことはあるのではないでしょうか。
とても簡単に言ってしまうと、
起:物語のはじまり
承:展開
転:展開がひっくり返る、大きな変化、山場
結:物語のしめくくり
序:物語のはじまり。「起」の部分
破:展開と変化。「承」「転」の部分
急:物語のしめくくり。「結」の部分
こんな感じでしょうか。
つばさ文庫のような児童向けの作品では、ひとまず「起承転結」をベースにお話を考えてみるとよいと聞きます。
というわけで、「起承転結」という構成をつかって考えていきましょう。
「起承転結」を使えばストーリーが作れそう!と感じたあなた、ぜひ作ってみてください。
それぞれのパートでどんなことが起こるか考えて書いてみると、それがそのままお話の設計図(「プロット」と言ったりします)になります。
いきなり考えるのはむずかしい……というあなたは、好きな作品をこの「起承転結」で分析してみてください。本でも漫画でも、映画でも大丈夫です。
たとえば、映画「トイストーリー」(1995年)だとこんな感じです。
起:ウッディとおもちゃたちの日常。バズとの出会い。ウッディのバズへのやきもち。
承:ウッディとバズがシドに捕まる。バズが自分がおもちゃであることを知る。シドの家のおもちゃとの出会い。
転:ロケット爆弾で飛ばされそうになるバズ。それを助けるウッディとおもちゃたち。
結:引っ越すアンディの車に乗りこむためロケット爆弾を使うウッディとバズ。戻ってきた二人に喜ぶアンディ。
ウッディ……カウボーイ人形。アンディ少年の大のお気に入りのおもちゃ。
バズ……バズ・ライトイヤー。アンディの誕生日プレゼントとしてやってきた新しいおもちゃ。自分自身をおもちゃではなく本物のスペースレンジャーだと思いこんでいる。
アンディ……おもちゃが大好きな少年。小さな頃からウッディとともに過ごしてきた。
シド……おもちゃを改造するなど乱暴にあつかう少年。)
さて、ふたつめのコツで、「最初」と「最後」を決めることができたとします。
「最初」は「起」、「最後」は「結」の部分にあてはめることができますね。
残るは「承」と「転」です。
この部分では、いったい何を書けばいいのでしょうか?
「承」と「転」について考えるときに重要になってくるのが、「起」と「結」で起こる変化のくわしい分析です。
ここで注目するのは、「記」の部分にあてはめた「最初」の状態です。
「最初」は、何かが欠けた状態だと書きました。
分析は、まずこの「欠けた状態」を見ていくことから始めましょう。
ここでも「トイストーリー」の主人公、ウッディをベースに考えていきます。
(ここからは、トイストーリーを見たことがない方にとってはかなりわかりづらい内容になってしまうかと思います。ごめんなさい!)
「トイストーリー」において、最初のウッディに欠けていたものとはいったいなんでしょうか。
いろいろな答えがあっていいと思います。どれも正解です。
ここではひとまず、私の出した答えを例につかって考えていきたいと思います。
ウッディに欠けていたもの。私はそれを、「変化を受け入れる勇気」ではないかと考えました。
ウッディはアンディの一番のお気に入りのおもちゃであり、特別な存在でした。他のおもちゃたちをまとめるリーダーでもあります。
そこに「バズ」という新入りがやってきます。最新機能のついたバズにアンディは大喜び。ウッディよりもバズで遊ぶようになってしまったうえ、おもちゃたちの中心にいるのもしだいにウッディからバズになっていきました。
ウッディは当然、バズにやきもちをやきます。そして以前のような「アンディの一番」という地位を取り戻すために、バズの存在がジャマだと感じ始めます。
ウッディのバズに対するやきもちは、とあるアクシデントにつながります。そのアクシデントにより、ウッディとバズはピンチにおちいることになるのです。
ここまでに起きたことをまとめると、次のようになります。
・バズの登場により、ウッディのそれまでの地位がゆらぐ(変化)
・ウッディは地位を守ろうとして行動する(変化への抵抗)
・その結果、かえって自分をピンチにおちいらせてしまう
こうなってしまったのは、ウッディに「変化を受け入れる勇気」がなかったからではないでしょうか。ウッディは、それまでの地位を守りたい、つまり変化したくなかったのです。
もし最初からウッディに「変化を受け入れる勇気」があったなら、どうなっていたでしょう。
ウッディはアンディが新しいおもちゃに夢中になったとしても、嫉妬したりしません。「子どもというのはそういうものだ、しかたがない」と現状を受け入れ、バズとアンディを見守りつつ、いつかアンディに再び手に取ってもらうときを静かに待ったのではないでしょうか。
しかし、こんな大人な主人公では、ストーリーは進まないのです。
逆に言えば、ストーリーというのは、最初が欠けた状態だからこそ進んでいくものなのです。
トイストーリーは、ウッディが「変化を受け入れる勇気」を手にするまでの物語、と言い換えることができます。
ここでもう少し「欠けた状態」について分析をします。
その「欠けた状態」の主人公の、「考え」と「行動」について考えてみるのです。
最初のウッディは、どんな行動をしていたでしょうか。その行動のウラには、どんな考えがあったでしょうか。
ウッディは、新入りのバズをジャマに感じて排除しようとします。それはどうしてでしょう。ヒントは、ウッディの過去にあります。
彼は長年、アンディの一番のお気に入りのおもちゃでした。長年ともに過ごした二人の間には、強いきずなが結ばれていきます。
そのうちウッディの中で、「アンディの一番であること」が彼のアイデンティティになっていきました。
アイデンティティとは、自分と他の人がはっきり区別されるための、自分だけの個性や役割のことです。
本来、おもちゃのアイデンティティは「子どもを楽しませること」、そしてもっと言えば「子どものそばにいること」、「子どもの成長に寄りそって支えること」であるはずです。
ウッディは、「アンディの一番」というアイデンティティを失いたくないあまりに、視野がせまくなっていました。おもちゃの本来のアイデンティティが見えていない、または気づいていない状態にあったのです。
ここで、「最初」のウッディの「考え」とそれによる「行動」をまとめてみます。
【最初(起)】
考え:ウッディはアンディの一番であり続けようとして、おもちゃ本来の「子どものそばにいること」というアイデンティティを忘れている。
行動:バズをジャマに思い、排除しようとする。
では、最後はどうなればいいのでしょうか。
いちばん簡単な方法は、「逆にすること」です。
アンディの一番であり続けようとする→それをやめる
おもちゃ本来のアイデンティティを忘れている→それを思い出す
排除しようとする→受け入れる
これをまとめて文章にしてみると、次のようになります。
【最後(結)】
考え:ウッディはおもちゃ本来のアイデンティティを思い出し、アンディの一番であり続けようとするのをやめた。
行動:バズを仲間として受け入れる。
ウッディに欠けていた「変化を受け入れる勇気」が、きちんと補われる形になっていますね。
考えと行動を分析したことで、「起」と「結」の部分がより具体的なものになりました。
さあ、ここでようやく「あいだ」の話に戻ってきます。
「承」と「転」では、何を書けばいいのでしょうか。
結論から言います。
「承」で書くこと:「最初の考え」を大きくゆさぶるようなできごと
「転」で書くこと:「最後の考えと行動」につながる主人公の行動
トイストーリーの「承」では、実際にどんなできごとが起こっていたでしょうか。
そう、「ウッディとバズがシドに捕まる」ですね。
ここではウッディもバズも、外の世界に出ることで持ち主のアンディと離れてしまいます。
長い間アンディの部屋で過ごしていたウッディにとっては、とても大きなできごとです。
「起」の部分でウッディをなやませていたのは、バズの存在でした。バズの登場で、ウッディの大事なアイデンティティがピンチにおちいってしまったのですから。
ところがアンディの部屋から外に飛び出してしまった今、それどころではなくなってしまいます。
「アンディの一番のお気に入り」どころか、「アンディのおもちゃ」ですらなくなってしまうかもしれないのです!
シドに捕まったウッディは、最初にしがみついていたアイデンティティがとても小さなもの、間違ったものであることに気づき始めます。
「承」で描くのは、この「気づき」です。正確に言えば、「気づき」とそこにつながる「できごと」です。
最初のウッディの考えは、「アンディの一番であり続けようとする」ことです。
その考えが無意味なものになってしまう、あるいは通用しなくなってしまう事態。それが、気づきにつながる「できごと」です。
そして「承」での主人公は、「起」でしていた考えや行動をとることが次第にできなくなっていきます。
ウッディが「起」でしていた考えと行動は、「アンディの一番でいようとすること」、「バズの排除」です。
その結果、ウッディもバズもアンディから離れることになり、シドに捕まってしまいます。
アンディから離れることが、おもちゃ本来の「子どものそばにいる」というアイデンティティを思い出すきっかけになるのです。
ウッディのバズに対する気持ちも、同じように変化していきます。バズは敵ではなく、「アンディのおもちゃ」という同じ役割を持つ仲間だということに気づき始めるのです。
こうして「起」の考えと行動を手放した主人公は、次の「転」のパートで行動に出ます。
トイストーリーでは、バズがロケット爆弾で飛ばされてしまうことをウッディが知るあたりからがこの「転」にあたります。
「転」までくると、「アンディの一番でありたい」という気持ちはウッディの中から消え失せています。
二人で無事にアンディのもとに戻ること。これがウッディの新しい目的になります。
「アンディのそばにいる」という大事なアイデンティティを思い出し、「バズを受け入れること」を決意したウッディは、なんとかバズを助けようと奮闘するのです。
ここまで書いてきたことを簡単にまとめると、次のようになります。
「起」:欠けた状態(ここから主人公の最初の考えと行動を決める)
「承」:「最初の考え」を大きくゆさぶるようなできごとが起こる
「転」:「最後の考えと行動」につながる行動を取る
「結」:欠けた状態が補われる(「起」とは違った考えと行動になる)
……とても長くなってしまいました。
トイストーリーの起承転結を考えることで、小説の「あいだ」に何を書けばいいのか、なんとなく浮かんできましたでしょうか。
と、ここまで書いてきてなんですが……実は私自身は、小説を書くときに「起承転結」は使っていないのです……!
実際に使っているのは、「三幕構成」という考え方です。
三幕構成よりも起承転結のほうがなじみがあってわかりやすいかなと思い、このような記事にしてみました。
長いうえにちょっと、いやかなりわかりづらい部分もあるかと思います。完全に私の力量不足です。ごめんなさい……!
わからないこと、質問したいことがあったら、Xやマシュマロなどにお寄せください。今の私にできる範囲で答えさせていただきます。
【チャレンジ:「トイストーリー」を見て考えてみよう!】
ここからはおまけです。
トイストーリーを見たことがある方もない方も、もしよければ「トイストーリー」を見ながら、以下のことについて考えてみてください!
①「トイストーリー」は、ひとつめのコツである「!」や「?」がたくさん登場します。どんなものがあるでしょうか?
②「変化」についてですが、「トイストーリー」ではウッディだけでなく、バズや他のおもちゃも「変化」をしています。どのような変化でしょうか。
③「トイストーリー」における「障害」とは何でしょうか。ひとつでしょうか、それともいくつもあるでしょうか。
④ウッディはその「障害」をどのように乗り越えたでしょうか?
⑤一番最後の障害を乗り越えるためのヒントは「起承転結」のどこに出てきましたか?
⑥「悪役」に見えるシドは、どういう役割をになっているのでしょうか。
「トイストーリー」をはじめとしたピクサー映画はストーリーを作るのにとても参考になるものばかりなので、ぜひ他の作品も見ていろいろと分析してみてくださいね!
ここでやったように、「考え」や「行動」などが完全にわからなくても大丈夫です。
ひとまず、見ているときは「障害」に注目して、見終わった後で「変化」について考えてみましょう。
それもわからない!という方も、大丈夫です!
プロの作ったストーリーを楽しむことができた。
それだけでも、着実にストーリー作りの経験値になっていますから!