小説の書き方① おもしろいって何?~ひとつめのコツ

2024年11月8日金曜日

小説の書き方

 読者さんからいただくお手紙の中に、しばしば「小説の書き方のコツを教えてください」といった質問が書かれていることがあります。

 お返事には「うまく書こうとせず、楽しく書きましょう!」「自分の好きなこと、得意なことについて書きましょう!」などと書いてきたのですが、これではあまりにもざっくりしすぎていてぜんぜん参考にならんのじゃないか……?

 と思い、機会があれば読者さん向けの「小説を書くコツ」についての記事を書きたいな、と考えるようになりました。

 とはいえ私も修業中の身ですし、いまだに小説の書き方なんてわからないままです。どんどんアイディアがあふれてきてさらさら~っと魔法のように一気に最後まで書けてしまう……なんてことは一度もなく、毎回とっても迷ってなやんで、なんとか読める形の本にしている、という感じです。

 それでも本を出せて何とか今も小説家を名乗れているのは、「小説の書き方」に関する本をたくさん読んで勉強してきた成果なのかな、と思っています。

 この記事では、私が本から学んだことや、小説を書いてきた中で気づいたこと・感じたことなどを中心に、なるべくわかりやすく「小説を書くコツ」について書いていきたいと思います。

おもしろい小説って何?

 ひとくちに小説といっても、いろいろなものがあります。

「おもしろいもの」「勉強になるもの」「知らない世界を見せてくれるもの」「はげまされるもの」「考えさせられるもの」……あなたが書こうとしているのはどんな小説でしょうか。

 私にお手紙をくださったり、このブログを読んでくださったりしているということは、「サキヨミ!」のような小説でしょうか。

 ひとまずここでは、「サキヨミ!」のような小説を書こうとしている方に向けてお話をしていきたいと思います。


「サキヨミ!」は角川つばさ文庫という児童文庫レーベルから出ている作品です。角川つばさ文庫には名作やノンフィクション、ノベライズ作品などさまざまなものがありますが、「サキヨミ!」をはじめとする多くの作品は「オリジナル」というジャンル(種類)のものです。オリジナル作品の中でも「恋愛」「冒険」「学園」「ホラー」「ミステリー」など、さまざまなジャンルがありますね。

 それらはみんな、わくわくするストーリー展開でみなさんを楽しませてくれます。こうした読者さんを楽しませる小説のことを、「エンターテインメント小説(または「娯楽小説」)」といいます。

(余談ですが、こうしたエンターテインメント小説と対になるジャンルとして「純文学」というジャンルがあります。ものすごくざっくり言ってしまうと、エンターテインメント小説は「楽しい小説」、純文学は「芸術的な小説」です。直木賞はエンターテインメント小説、芥川賞は純文学の賞です。)


 角川つばさ文庫で出ているオリジナル作品は、すべて「エンターテインメント小説」にあてはまると考えてよいでしょう。

 エンターテインメント小説の特徴は、なんといっても「おもしろい」ことです。私自身も、「サキヨミ!」は「おもしろい小説」にすることを目的に書いています。

(またしても余談ですが、純文学はおもしろくなくてもいいのか、というと、私自身はそうは思っていません。エンターテインメント小説も純文学も、本質的にはそう変わらないと思います)


 では、どうしたら「おもしろい小説」が書けるのでしょう。

 そもそも、「おもしろい」とは一体なんでしょうか。

 先が見えない展開にハラハラすることでしょうか。かっこいい登場人物やすてきなセリフにドキドキすることでしょうか。初めて知る新しい知識や世界にワクワクしたり、思いがけないラストにぼうぜんとしたり、胸を打たれて涙を流してしまうことでしょうか。

 一冊の小説には、さまざまなおもしろさがつめこまれています。そしてそれを読む読者さんがそれぞれに感じる「おもしろさ」があります。世の中の小説の数と読者さんの数をかけあわせただけの数の「おもしろさ」がある……そう思うと、なんだか気が遠くなってきてしまいますね。

 気が遠くなってきたときにオススメの考え方があります。

 それは「抽象化(ちゅうしょうか)」です。

 ちょっとむずかしい言葉ですが、一度理解してしまえば簡単です。抽象化とは、「たくさんある事がらの中から、共通する特徴をぬきだす」ということです。

 さっそくやってみましょう。上に書いた「ハラハラ」や「ドキドキ」、「ワクワク」や「ぼうぜん」に共通する特徴とは、一体なんでしょうか。

 私はこれを、「心が動くこと」なんじゃないかと考えました。

 笑ったりおどろいたり、怒ったり悲しんだり。

 小説は、短い時間で読者の心に波を立ててくれます。

 日常生活を過ごしているだけでは、なかなか味わえない大きな心の動き。

 それを短い時間でたくさん味わえることが、小説を読む醍醐味(だいごみ)――楽しさなのではないかと思うのです。


 おもしろい小説とは、「読者さんの心を動かす」ことのできる小説。

 ここではひとまず、そんな「心を動かす」小説を書く方法について考えていきたいと思います。

 では、心を動かす小説って、どのように書けばいいのでしょうか?

ストーリーって何? ――「!」と「?」

 ここで重要になってくるのが、「ストーリー」です。

 ストーリーとは、「物語」とか「筋書き」という意味です。

 小説には、多かれ少なかれ、「ストーリー」があります。

(もちろんストーリーらしいストーリーがない小説というのも世の中にはあるのですが、それについてはここでは取り上げません)


 そもそも、ストーリーとはいったい何でしょうか?

 たとえば誰もが知る「桃太郎」のストーリーは、こんな感じです。

「おばあさんがモモを拾う。その桃から男の子が生まれる。成長した男の子は鬼ヶ島に鬼退治に行くことを決意し、きび団子を持って家を出る。道中、犬・さる・きじというお供ができる。桃太郎一味は鬼を退治し、宝を持ち帰る。」

 ここからストーリーというものの特徴を考えると、だいたい次のようなものになるかと思います。


・「主人公」とそれを取りまく「登場人物」がいる

・さまざまなできごとが連なって形作られている


 つまり、ストーリーには「キャラクター」と「できごと」が必要らしいということがわかります。


 とつぜんですがみなさん、ここでちょっと、昨日のできごとを「ストーリー」にしてもらえないでしょうか。

 たとえば、こんな感じです。


 私は昨日、朝七時に目覚まし時計で起きた。ベッドから出て階段を下り、トイレに行った。顔を洗って朝ご飯を食べ、着がえて家を出た。

 学校に行く途中で友達のMちゃんに会った。授業でわからない問題を先生にあてられてしまい、答えられずにMちゃんになぐさめられた。

 家に帰っておやつを食べていたら、眠くなったので夕ご飯の時間まで寝てしまった。お風呂に入ろうとしたとき、明日がしめきりの宿題ができていなかったことに気づき、あわてて取りかかった。やっとのことで終わらせてシャワーを浴び、ベッドに入って寝た。


 どうでしょうか。

「私」「Mちゃん」という登場人物=キャラクターがいて、「できごと」もしっかりと書かれています。

 でもこれ、あんまり……というか、ぜんぜんおもしろくないですよね。

 どうしてでしょう。キャラクターもできごとも書かれていて、きちんとストーリーの条件を満たしているのに!

 あなたが作ったストーリーはどうでしたか?

 おもしろいと感じたでしょうか。それとも、おもしろくなかったでしょうか。

 おもしろいと感じた方は、どこがおもしろかったですか? どうしておもしろいと感じましたか? もっとおもしろくするには、どうすればいいと思いますか?

 おもしろくなかったと感じた方は、どこをどう変えればおもしろくなると思いますか?


 さあ、ここからが楽しい小説の時間です。

 自由な妄想をくりひろげて、「おもしろい」ものになるように今作ったストーリーを変身させてみましょう!


 とりあえず、こんな感じに変えてみます。


 学校へ行く途中で友達のMちゃんに会ったら、今にも泣きだしそうな顔。

 おどろいて「どうしたの?」とたずねても「なんでもないよ」と答えてくれない。

 おかげで授業にも集中できなくて先生に怒られてしまった。

 いつもだったらこういうときになぐさめてくれるMちゃんだけど、今日はなんだか私をさけているみたい。Mちゃん、一体何があったの?


 あえて途中までにしてみましたが、どうでしょうか。

 最初のものよりも、がぜん「ストーリー」らしくなった感じがしませんか?

 私は、おもしろいストーリーには必ずある要素が入っていると考えています。

 それは、「!」と「?」です。

「!」は、心が「ハッ!」とすることです。予想外のできごとや展開にびっくりしたり、キャラクターの行動やセリフに感動したり、知らなかった考え方などに出会って目からウロコが落ちたりすることです。

「?」は、「ん?」「え?」「どうするの?」という心の動きです。「謎」と言い換えることもできると思います。


 書き直したバージョンでは、「Mちゃんが泣きだしそうな顔」をしているのが「!」です。その後、なぐさめてくれるどころか自分をさけているMちゃんの態度に胸を痛める読者さんがいれば、それも「!」になるかもしれません。

 そして「?」は、最後の一文にあるように「Mちゃんに何があったのか」です。

 この「?」は、読者さんに先を読んでもらうための大事な装置になります。読み進めてMちゃんに何があったのかわかったところで、この「?」は「そうだったのか!」という「!」に変化します。

 桃太郎でも考えてみましょう。

 まず「大きな桃が流れてくる」「その桃から男の子が生まれてくる」というのが「!」ですね。

 そして「?」は、「果たして桃太郎の鬼退治はうまくいくのか?」という部分です。

 きび団子で動物が家来になるところや鬼ヶ島での戦いの様子も、「!」や「?」になるかもしれません。

 この「!」と「?」をバランスよくちりばめていくことが、おもしろいストーリーを作るコツだと私は考えています。

※大事なのは、「?」を最後まで残さないこと。例外はありますが、基本的には必ずその作品内で「?」を「!」にしてあげてください。ちなみに「?」は大きなものをひとつだけでもいいのですが、それとは別に小さなものを二つ三つ入れてみるとおもしろさが増すと思います。

※そしてこの「?」、実は二種類あります。おもしろくしてくれる「?」と、読者さんのストレスになってしまう「?」です。ストレスになってしまう「?」については、別の記事でお話しできたらと思います。


 さて、先ほど書き直した新バージョンのストーリー。

 みなさんだったら、この続きをどんなふうにしますか?

 これは、書きたいジャンルによって変わってくるんじゃないかなと思います。


恋愛小説にしたい場合:

 実はMちゃんは、昨日好きな人に告白をした。

 でも、他に好きな人がいると言われてふられてしまった。その相手が実は主人公だったのだ。

 Mちゃんは主人公は何も悪くないという思いと、主人公さえいなければという思いのはざまで揺れていた。


ファンタジー小説にしたい場合:

 今日はMちゃんの13歳の誕生日。

 実はMちゃんの家は代々秘密のお役目を受け継いでおり、13歳の誕生日にそれを知らされるというしきたりがあった。

 お役目のことを知ってショックを受けるMちゃん。まだ現実を受け入れられずにいた。その秘密のお役目というのは……


 さて、Mちゃんのお役目とは一体なんでしょう? 自由に考えてみてください!


ひとつめのコツ:「!」と「?」を使ってみよう!

プロフィール

七海まち(ななみ・まち)
小説を書いています。角川つばさ文庫より「サキヨミ!」シリーズ発売中です。

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