これまで、小説に必要なものは変化や障害というお話をしてきました。これはストーリーを作る上で必要なものです。
ですが小説には、ストーリーとともに絶対になくてはならない要素があります。それが今回取り上げる「キャラクター」です。
このキャラクターという言葉、元は英単語の"character"です。characterという単語には、登場人物という意味のほかに、「性格」「特徴」「個性的な人」といった意味があります。
よく「キャラが立ってる」なんていうふうに言いますよね。この場合は特徴や個性という意味合いで使われているようです。
私は、キャラクターはストーリーと同等、もしくはそれ以上に大事なものだと考えています。
これまでたくさんの小説や漫画を読んできましたが、途中でストーリーに興味を持てなくなっても、好きなキャラクターさえいれば最後まで読むことができたからです。
おもしろいストーリーを考えることももちろん大事ですが、キャラクターをしっかりと作りこむこともとても大事なことです。
特につばさ文庫のような児童文庫では、「いかに魅力的なキャラクターを作るか」が勝負になってくるのではないかと考えています。
では、どうすればそんなキャラクターを作ることができるのでしょうか。
そもそも「魅力的なキャラクター」とは何でしょうか?
かっこよくてあこがれる、なやみに共感できる、優しさに感動する、がんばっているからなんとか報われてほしい……いろいろあると思います。
これを例のごとく抽象化してみると、ちょっとむずかしいですが、「リアルさ」になるんじゃないかなと私は考えました。
考え方や感じ方に不自然なところがなく、共感できる。なるほどそうだよね、とか、わかるわかる、と読みながら自然と感情移入してしまう。
そんな魅力的なキャラクターを作るためには、しっかりとした土台――背景の設定が必要になってくるのではないかと思います。
まずは、ふたつめのコツである「変化」を軸にキャラクターを作ってみましょう。
①「変化前」(欠けた状態)と「変化後」を考える
ストーリーには「変化」が必要でしたね。
この変化はストーリー上のものもありますが、「キャラクター(主人公)の変化」とほぼイコールだと考えてもよいと思います。
例として、次のような設定を考えてみます。
変化前:自分の持つ特殊能力から目をそむけて、平穏な日々を過ごしたいと思っている
変化後:特殊能力と向き合い、前向きにそれを使っていこうと考えるようになる
②それぞれの背景を考える
次に、背景を考えましょう。
変化前の文章に対し、「↓なんで?」と書き込みます。
変化前:自分の持つ特殊能力から目をそむけて、平穏な日々を過ごしたいと思っている
↓なんで?
変化後:特殊能力と向き合い、前向きにそれを使っていこうと考えるようになる
↓なんで?
この「なんで?」の下に、その理由を考えて書いていきましょう。なんでもいいです。迷う場合は、複数書いてもかまいません。
変化前:自分の持つ特殊能力から目をそむけて、平穏な日々を過ごしたいと思っている
↓なんで?
小さい頃、その特殊能力のせいで悲しい思いをしたから
少し前に、その特殊能力のせいで悪目立ちして嫌な思いをしたから
特殊能力を使うのがめんどうくさいから
このように書いていき、一番しっくりくるものをひとつ選んでみましょう。ここでは、一番上の「小さい頃~」というものにしてみます。
選んだら、その下に「↓」と書き込み、理由についてくわしく掘り下げていきましょう。
「なんで?」を繰り返してもいいですし、「なんで?」でうまく考えられなかったら、あいまいな部分に下線をひいてその部分について具体的に考えていくのもいいと思います。
変化前:自分の持つ特殊能力から目をそむけて、平穏な日々を過ごしたいと思っている
↓なんで?
小さい頃、その特殊能力のせいで悲しい思いをしたから
↓
その特殊能力を使おうとして、大事な人を傷つけてしまった
↓
その特殊能力で弟を救おうとした結果、友達にケガをさせてしまった
このように矢印を使って理由を具体的にしていくことで、そのキャラクターの背景がどんどん具体的なものになっていきます。こうすることで、そのキャラクターの性格や考え方が自然と形作られていくようになります。
さらにこれを「変化後」についてもやっていきましょう。
「変化後」に対して「なんで?」や「↓」で掘り下げていくと、「起承転結」の「承」や「転」で書くべき内容が定まってきます。
変化後:特殊能力と向き合い、前向きにそれを使っていこうと考えるようになる
↓なんで?
家族の恐ろしい未来を見て、特殊能力を使わざるを得ない状態におちいるから
↓
今までどおり何もしなければ家族が事故に遭って大ケガをしてしまう
↓
弟がどこかで落ちて血を流すという未来を見て行動を起こそうとする
↓
助けたいと思い、未来を変える決意する
これに関しては、ひとつではなく複数考えられそうだったらぜひそうしてください。たとえば……
変化後:特殊能力と向き合い、前向きにそれを使っていこうと考えるようになる
↓なんで?
同じ能力を持つ同級生と出会ったことで考えがじょじょに変わっていったから
↓なんで?
その同級生は自分とは違い、特殊能力を使って人助けをしていたから
↓なんで?
「大切な人」に力を前向きなものとしてとらえてほしいと考えていたから
↓なんで?
「大切な人」が〇〇〇〇〇傷ついたことを知っているから
↓なんで?
実はその同級生は〇〇〇〇〇〇だから
(※こちらの例では「なんで?」を繰り返してみました)
途中の「大切な人」の部分から、主人公ではなく同級生の「なんで?」に変わっていることに注目してください。
このように、主人公に影響を与える人物やアイテムなどの設定ができてきたり、その他の部分に厚みが出てきたりします。
別の「なんで?」の列ができそう!と思ったらぜひ実行してください。途中で枝分かれしそうだったら、それぞれの続きを最後まで考えてみてください。
できた列は、無理にすべて使おうとしなくても大丈夫です。たくさん書いてみて、しっくりくるものを選んで使うようにしてくださいね。
ちなみに、もうおわかりだと思うのですが、ここで例に挙げたのは『サキヨミ!①』の美羽のキャラクター設定です。「同級生」は瀧島君のことですね。
ネタバレに配慮して一部伏字にしてしまいました。わかりづらくなってしまってすみません。伏字の中身はこの下の部分↓を反転させてご確認ください。
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「大切な人」が力のせいで傷ついたことを知っているから
実はその同級生は主人公のかつての幼なじみだから
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「変化前」「変化後」にかぎらず、
「動物が好き」
「高いところが苦手」
「髪をのばしている」
「緊張すると笑ってしまうクセがある」
などの外見や性格などの設定をした場合、これについても「なんで?」や「↓」を使って考えていくといいと思います。好き嫌いや性格、クセ、考え方などには、ほぼ必ずなんらかの理由があります。
逆に、エピソードを考えた後で設定を考えてもいいと思います。そのほうが自然で無理のない設定を作ることができるかもしれません。(美羽の「高いところが苦手」はこのやりかたでできた設定です)
「なんで?」や「↓」を使って深掘りしていくことで、キャラクターの解像度が上がって書きやすくなるのはもちろん、読者さんの共感やあこがれを呼び起こすキャラクターを作りやすくなるのではないかと思います。
そうすることでキャラクターが生き生きと動き出し、魅力的になっていくのではないでしょうか。
ぜひぜひ、このやり方であなただけのすてきなキャラクターを生み出してみてくださいね。
いつつめのコツ:キャラクターは「なんで?」や「↓」で考える